zero





(きっと誰かを待っている)
(決定的に、根底から揺さぶるなにかを持つ誰か)

      でも、

 どうせそんなの現れないと、思ってる
 なんて、身勝手な話。

 





「そんなとこで何してんだ、オマエ」
「‥‥グリーン」

 目をあけると、寝ころぶ視界を遮るように、前触れなく現れた幼馴染の顔があった。くっきり呆れがみてとれる表情で、もう何度目になるかもわからない言葉を落としてくる。良く飽きずに何度も何度も、とこっちが呆れたいような気もしているけれど。

「そう鬱陶しそうな顔すんなよ。別に、山から下りろとか人間らしい生活してくれとか、     また、戦えとか。言いにきたわけじゃねぇよ、もう」
「ようやく、諦めてくれる気になった?」

 どうせ言っても無駄なんだろ、と。苦みをはらんで笑う彼は、いつかの、所構わずバトルを吹っかけてきたころとは違う、おとなのそれに近づいているように思えた。自分が閉じこもっている間に、時間はたしかにながれていて、いつまでも取り残されていくのだろうか、と。思う。
 そう、思うと。知らず知らずにふ、っと自嘲をこめた笑みが浮かんだ。そのせいか、関係ないことを考えていたのが伝わったらしく、ふかいためいきがひとつ、グリーンの口からおちる。

「昔からそういう奴だよなオマエは。マイペースっつーか、掴みどころがねぇっつーか‥‥、オレのことなんか視野にも入ってねぇの。いつだって先にいて、いろんなものを手に入れられたくせに、ためらいなく捨てきやがる」
「べつに、捨ててないけど?」
「オレから見たら、捨てたも同然なんだよ。馬鹿。」
 
 そんだけ強いくせにこんな仙人みたいな生活しやがって、宝の持ち腐れって言葉しってんのかオマエ?くっそホントいつかぼっこぼこにしてやりてぇ、だとかなんとか呟きが聞こえてきた。ので。

     なら、また、殴る?」
 
 冷たい岩の上で寝ころんでいたからだを起して、左手の甲で軽く自分の頬をたたく。そして、また、を強調してかすかに笑ってみせれば、無駄にリアルファイトの強い彼はものの見事に言葉に詰まった。

「あ、れは、‥‥あ、謝っただろ」
「どうだかぁ?」
「しつこいな、意外と‥‥。っていうかオマエも殴り返しただろーが!?」

 そうだっけ?と、適当にそらとぼける。
 何故、と誰もが思っていただろう問いを、真向からぶつけてきたのはこの彼だけで。けれど当時の自分にとって、それさえもただ重荷でしかなかった。あのころこども、だったのは、きっとお互い様だ。今だって、俺はこどものままなのは知っているけれど。

「あー、いやさ、だからそんな話をしに来たんじゃねーんだ。今日は」
「へぇ?」
「こないだオレのとこのジムに挑戦者が来て、バッチ、あっさり持ってかれた」
「‥‥しょくむほうき?」
「るせー!!」

 彼のこの性格と実力があいまって、トキワのジムは難攻不落ともっぱらの噂だ。それを突破したというだけでなかなかのものだろうに、何より、このグリーン自身が素直に負けを認めている方が、個人的には意外、だった。

「‥‥‥そいつ、あたらしいチャンピオンなんだ。ワタルに勝った、って言ってたから」
「‥‥へぇ、」
「きっと、ここにも来るぜ。オマエのことは知らねぇだろうけど、‥‥確実に、ここまでくる」

 にやり、と嗤いうさんくさい宣告者よろしく彼は告げる。
 オマエ、きっと負けるぜ、と。

 その根拠がどこにあるのか分からない。けれど、ある種の確信をもった言葉だった。
 そんな発言、初めて聞いた。このプライドの高い幼馴染をしてここまで言わせる、その人物。興味というには、うすい気持ちだけれど、小さくなにかがひっかかるのを感じた。

「名前     そのひとの、なまえ、は?」

 名前がわからなきゃ、確かめられない。ひっかかった何かにせきたてられて、いるような。不思議な焦燥感。聞かないといけないような、そんな気がした。
 けれど、そんなぐるぐるうずまくものなんて彼にはお構いなし、らしかった。先刻のおかえしなのか、軽く笑ってこたえてみせる。

「自分で聞け」
「でも、」
「会ったら、わかるから。     あー、まぁぱっと見はどうしよーもねぇ感じだけどな。ただ‥‥、」

 あの、目が。と、言いかけて言葉を切った。その『誰か』を思い返す眼差しは、思いもよらず優しい。それにも少しばかり驚いた。
 じゃ、会ったらよろしく伝えてくれよ。
 きょとんと、している間にグリーンは軽く手を振り、来た時と同様あっさり去って行った。
 本当に、それだけを伝えに来たらしい。ああ、あそこのジムの他のひとは大変だなぁ、とぼんやり思ったけれど、そんなことよりも。

「ピカチュウ、挑戦者、だって」
 
 ぴか、と隣りから声がした。ふかふかの頭をなでてやると、心地よさそうにめを細める。
 どれだけぶりだろうか。野生のポケモンが通常よりもあまりに強く、四天王制覇なりなんなり、それなりに認められるような者でなければ踏み込めないこの場所に、人が来ること自体珍しいというのに。

「そのひとは、おれに勝つだろうか」

 おれは、負けられるだろうか。
 おれは、     かわれるだろうか。



 ごろりと寝ころび雪のおちてくる空を見た。
 



















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誰得?俺得!な携帯獣。これぽけもんである必要性なくね?とか、ほぼおりじなるじゃね?とかは言わないお約束。
自給自足と言う名の捏造設定満載れんさいよてい。気が向いたらお付き合いください。
20100822