しろにひらめくあかいひかり。
さくさく、と雪を踏む音だけがひびく。そして、音もなくあちこちから降り注がれる強い視線。じりりと突き刺さる野生の警戒心に満ちた気配。たしかに、それなりにつよくなければ、入るのさえためらいそうな場所。だからこそ、おもしろい。
「ここは、正解、ってことね、ヒノアラシ」
ひのひの、と律儀に答えてくれる炎属性の相棒のおかげで、からだもこころもなんだかあったかい。うれしくてうれしくて、ホント頼りになるなぁと想いをこめてみつめれば、ひのぉ!と返事をくれるのも、通じ合ってる!って感じでいいよね!
もうひとつ、嬉しいのは。
『コトネさん、チャンピオンおめでとうございます。夢をかなえられた感想は?』
『ここまで相当努力なさったんですね!まだお若いのにすごい!』
「まだなの。まだまだなの。」
チャンピオンのインタビューで問われたことばを、口に出してはっきりと否定した。
そう、だってわたしはまだまだ。
振り返り際、くさむらからあらわれるゴルバットへかえんほうしゃとスピードスター。同時に出てくるリングマとニューラをまとめてふんかで撃退。さすが!私の意思をくみとってくれるこの子達は本当に心強い。
でも、まだまだ。わたしは、まだ足りない。
確かに強くなったと、思う。そうでなければあのワタルさんに勝てるはずがないから。
けれど。
強くなればなるほどに。感じる。
「まだ、足りないの」
どうしたって埋められない焦りと不安と、欠乏感。
わたしは、‥‥‥なにをもとめているの?
仰ぐように見上げた山頂はまだ遠い。
と、そのとき、ちらりと視界の隅、なにかがよぎる。かいまみえたのは、ここにいないはずの黄色い尻尾。あれは、たしか、‥‥ピカチュウ?ほんの一瞬見えたそれに疑問を抱き、何となく周りを見渡している、と。
目が、あった。
そこにいたのは、赤。鮮烈に。
「え、」
人?と思ったのは一瞬。遠い山のむこう、ぶわりと吹いた風と一緒に、その姿はきえていた。
だれだろう。こんなところに人なんているんだろうか。
それとも、ひとでないなにか?そう、思いたくなるくらいに静かで遠くて鮮烈で。目に焼きつく強い赤。
思わず足を留めていると、その足をつつかれる。何してんの、と言わんばかりにせっついてくるヒノアラシがいて。い、いけないいけない!現実に戻ろうと軽く頭を振り、相棒にかるくあやまってようやく歩き出した。
でも、どうしても、あのひとのかげが気にかかる。
遠くてまともに顔も見えなかったしよくわからなかった、ただ、赤い帽子の下にちらりとみえた、黒い髪と深い瞳
「見間違い、だったのかな」
「ひのぉ?」
「‥‥‥なんでもない!さぁ行こう、ヒノアラシ!」
「ひのひの!!」
思っても、みなかった。門番さんのお眼鏡にかなわないと入れないはずのこの場所。そんな面倒なところにわざわざやってくる、わたしと同じような、物好きなひとがいるんなんて。
やっぱり見間違いだったのか、それともやっぱり‥‥‥‥”ひと”じゃないの?とか思ったり。
山頂付近の洞窟の中、延々とわたしの頭をしめるのは、そんなこと。
ふと視線を落としたときに、ふるりと暗闇に身を震わせるヒノアラシに気付き、早く抜けよう、とあたりの様子を探ってみる。暗いなか、慎重に足を進めれば、薄ぼんやりと光の輪郭がうかびあがる。出口!はしゃいでかけ抜けると、冷たい強い風がふきつけてきた。外界の強い光と真白い雪で、視界が白く染め上げる。
‥‥ついでに暗い所からでてきたまぶしさに気を取られて、思い切りスリップ。「ふきゃあ!!」ぼすん、と間抜けな効果音を立てて、ふわふわでつめたい雪にうずもれる。
視界は真っ白真っ白、一面のしろ。冷たい。
おおう、わたしってばドジ、なんて罵りながら雪まみれの顔をあげる。
と、
「
「
赤が、あった。
しろのなかにあるには、鮮烈すぎる赤。
赤い帽子と赤い上着。でもきっと、だからじゃない。わたしにとって、そのひとの存在感は『赤』だった。あざやかにいろどる、強い赤。見入る。ひきつけられる。
そのくせ、なんだろう、目を離した瞬間に、消えてしまいそうなそんな気がして。
「だ、れ」
「‥‥‥」
無言で山頂にたたずむそのひとは、不意に、あわく微笑んだ。
「きみは、おれに勝てる?」
さぁ、おれを倒して。
そう言うがごとく微笑む彼のかたわらに、ピカチュウ。びりびりと圧縮された電圧、ここまで届くようなプレッシャー。ああ、肌をつきさす緊張感。
このひとは、つよい。直感だけれど、同時に確信。
でも。でもでも。だからこそ。
ここで逃げるなんて、もったいない!
「‥‥受けてたちます!」
起き上り、立ちあがり、真っ赤な鼻で恰好もつかないけれど構うもんか。
目の前につよいひと。
なら、戦わない方がどうかしてるよね!!
高らかに。雪山に謳うは、バトルの開始。愉しい楽しい、時間のはじまり。
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俺得小説出会い編。「‥‥‥」だけでバトルを挑まれちゃうとあまりに寂しいので、ちょこっとだけ喋らせてしまいました。反則?
20100822