One hundred Theme

ジャンル雑多。CP不定。+だったり×だったり→だったり←だったり。
暗かったり明るかったり甘かったり苦かったりぬるかったり、なんかも「いっつ気分次第」。
オンマウスでショウサイ。


「色々100のお題」(『追憶の苑』様よりお借りしました)

001:晴れた日に / 002:手  / 003:風の吹く場所  / 004:白い花  / 005:綺麗なもの  / 006:笑顔  / 007:手を繋いで  / 008:うた  / 009:おひるごはん  / 010:海  / 011:同じ空の下  / 012:安らぐ場所  / 013:心音  / 014:手紙  / 015:風に吹かれて  / 016:夕焼け  / 017:昼間の森  / 018:親友  / 019:昼寝  / 020:おやすみ  / 021:病  / 022:痛み  / 023:傷口  / 024:墓場  / 025:命  

026:死神  / 027:刈り取る者  / 028:漆黒の鎌  / 029:流血  / 030:吸血
 / 031:染まる  / 032:欠片  / 033:残酷な言葉  / 034:禁断  / 035:連鎖  / 036:仮面  / 037:壊れた時計  / 038:囚われの鳥  / 039:侵食  / 040:鎮魂歌  / 041:始まりの予感  / 042:初恋  / 043:ぬくもり  / 044:君の、となり  / 045:一緒に  / 046:紅水晶  / 047:踊りましょう  / 048:お願い  / 049:指輪  / 050:声を聞かせて

051:一番好きなひと  / 052:視線の先  / 053:こころ  / 054:君との距離  / 055:手を伸ばせば、すぐ其処に  / 056:ひとつ
 / 057:傍に、いるよ  / 058:逢えない時間  / 059:おかえりなさい  / 060:約束の場所  / 061:最果て  / 062:風の回廊  / 063:滅びた街  / 064:空に浮かぶ島  / 065:祈り  / 066:迷いの森  / 067:空中庭園  / 068:片翼  / 069:刹那の夢  / 070:箱庭の世界  / 071:風の行方  / 072:故郷  / 073:巫女  / 074:氷の檻  / 075:純白の樹海

076:月の光  / 077:夢の果て  / 078:儚き過去  / 079:幻影  / 080:永遠に  / 081:久遠の絆
 / 082:片割れ  / 083:楽器  / 084:しるし  / 085:あなたに見えますか?  / 086:海の道  / 087:境界線  / 088:眠れない  / 089:秒読み  / 090:遺物(異物、でも可)  / 091:お邪魔虫  / 092:理由  / 093:制服(軍服でも可)  / 094:利己的  / 095:博愛主義  / 096:氷点下の微笑  / 097:図書館  / 098:一途な想い  / 099:虚無  / 100:また、明日






















000

 ()






001:晴れた日に (沖田→千鶴)

「千鶴ちゃん、何してんの」
「洗濯物のとりこみです。今日は天気がいいですから、張り切っちゃいました」

 なにが楽しいのか、やけに機嫌よく縁側で洗濯物をたたんでいる少女を発見した。よほど機嫌がいいらしく、じりりと距離をつめても、呑気な顔に警戒の色は現れない。
 ふぅん、と興味なさそうな相槌でも、その気分に水をさすことはなかった。

「おひさまのにおいが好きなんですよ」
「干したての布団みたいな?」
「はい!ふわふわであったかくて、幸せって感じですよね!」

 ひのあたる縁側にいたせいかそれとも単に気分がいいからか、白いはだは桜色をしている。
 なんとなく愉快だった、自分のあたまの平和さが。近所の子どもと大差ないこどもじみたその様子を微笑ましい、などと思うとは。

「やすい幸せだねぇ、僕にはわからないよ」
「そんな!この幸せが味わえないのは損です!絶対損です!!!」
「そうかな」
「そうですよ!」
「ふーん、どうかなぁ」
「?」

 きょとんと首を傾ける彼女ににっこり微笑みかける。ようやくいつもの警戒心が戻ってきた少女の腕を、予告なくひいた。 ひゃ、とか悲鳴に色気がないのはいつものことで、それも悪くないと実は思っているあたり、結構重症なのかもしれないなと他人事のように思う。

 まぁ、それも悪くないかな。

 閉じ込めたのは、あったかくて。ふわふわで。おひさまのにおい。
 じたばたもがくからだを抑えながら。ふと、こみあげるは。

 ああ。
 しあわせ、って感じだ。


 (沖田さんそれはせくはらです。)
10/5/1







004:白い花 (ネウロ←ヤコ)

 白い花が咲いていた。
 雑然混然混沌とした、アスファルトと地面と雑多な植物がうごめきあう場所に、したたかに。凛と美しく咲く白い花。


「何をしている、ウジムシ」

 持ち帰った白い花を、まるで画家が鉛筆と対象を比べるように掲げて。悲しいとも思わないほどになれてしまった罵り文句はさらりと聞き流し視線を何度か往復させた。
 ああ、やっぱり。
 納得する。その上機嫌さのまま、白い花を魔人の髪に飾ってやった。

「にてる」

 一拍おいて、この上ないほど盛大に魔人の表情は歪み、ついで憐れみのそれへ変化した。

 ああ、先生、頭の中が空っぽ過ぎてとうとうお仲間の蛆が湧いてしまったのですねおいたわしい。
 わくか!誰が同類だ!!

 言ってる中身は相当ひどい演技をしつつ、当たり前のように髪から外そうとする動作をとどめた。
 留めて、上から白い花にくちづけた。

 自殺行為とも目に見える罠に飛び込む馬鹿な動物とも言う浅はかなその行動は、気まぐれというにはあまりに満足感のある。何より、そうするのが当然であるように、その時の私には感じられた。
 何故だろう。無性に、いとおしかったから。

 いびつでどろどろうごめく人間の感情とか悪意とか殺意とか(ああ、ある意味においてそれらは純粋なものと、言えるのかもしれないけれど)、 そういったものから生まれるぐちゃぐちゃにまざりあったものを糧とする魔人は、混沌から咲く無垢な白。
 だからうつくしいのか。
 だから、
 いとしいのか。









 もしそうなら、

 何の気なしにそれを摘み取ったわたしは、それでは何になるのだろう。



 (ブラックヤコ→ネウロ)
10/5/1






005:綺麗なもの (ジーン←麻衣←ナル)

 透明にわらう、その笑顔がきれいだったの。
 瞬くひとみから、ひとひらふたひら落ちていく。そのひとつずつがたとえば、その誰か、を思うカタチならば、真実彼女はおろかだ。
 届けるすべさえこの世にない、それはただ、落ちていくいだけだというのに。
 
 ひろいあげることは誰にもできない。
 ただ、彼女の足元に、こぼれていくだけ。


「ナル」

 どうしたのさ、と下から見上げてくる瞳は、ぬれても無ければ赤くもない。
 ただ、あの晩のすがたが一瞬ちらつく。記憶を読んだわけでもない、しいて言うならば、まぶたの裏に、やけついたように離れない、だけ。

「まだ、うさぎみたいになってるのかと思ってた」

 その翌日、翌々日までの見るも無残な姿を指せば、一瞬少女はかおを引きつらせる。「覚えてやがった‥‥」という聞こえていないと思っているだろうつぶやきに、「あいにく、どこかの誰かと違って優れた記憶力をしているもので」と混ぜ返せば、わかりやすくむくれてみせる。
 

 一拍、呆れたようにはぁ、といきをついて、彼女は真っ直ぐ彼を見上げる。
 
「だいじょうぶ、あたしは、ジーンが好きだから」

 あの日こぼした滴のように。きらりと少女は、透明に笑う。

 それが、あまりに透明で、
 それはそれは、みとめるのがしゃくなほど。 
 ―――――だから。くるしいほどに、むねをつく。
     

そして、いとしいもの
 (ナル→麻衣が死ぬほどすき)

 




022:痛み (双識×伊織 (家族愛的な))

 あの兄は変態だ。
 それもただの変態じゃない。生粋の殺人鬼であり妹萌えで、      大嘘つきの変態だ。


「悩んでいるのかい、伊織ちゃん」

 一番見たくないタイミングで一番見たくない姿が現れた。変態で最低でどうしようもないのに、優しくて頼りがいのある安らかな表情で。
 ‥‥こんなところまで、来ないで欲しかったですよ。
 出そうな文句は、うっかり浮かびかけていた涙といっしょに飲み込んだ。しょっぱいぜぃ、と皮肉る自分のことは正直嘲笑ってやりたい。

「‥‥悩んでいますよ。」
「それはいけない、私の可愛い妹が気を病んでいるだなんて!さぁ、お兄ちゃんに話してごらん?伊織ちゃん」

 眼鏡の奥の柔らかい瞳が語りかけてくる。
 瞬間、ふっ、と心がやすらぐ。
 当たり前のような懐かしいそのやすらぎにまかせたまま、

「てめぇが原因だこの変態兄貴!!」

 顔面へ容赦ない頭突きを繰り出した。殺人鬼として、ではない、あくまで可愛らしい女の子の、しかし必殺(正しい意味で、だ)の一撃。
 それすらさらりとかわして逆にはぐとかされてしまった。うざい、上にぶっちゃけ悔しい。
 何とかそれを振り払っても、兄はにこにこ悦にいっているままだ。ヤバイこの人真性だった。そういうところは忘れたくても忘れられない。

「おやおや。うふふ、私としては拳的な手法で語り合うのは是非弟とかそれらとやりたい類のことなんだけどね、ああでも可愛い弟に手をあげるのも好ましいわけじゃない、もちろん。つまり妹とはより一層そんな野蛮な行為はしたくないわけだよ。出来ればこう、蝶よ花よとしとやかかつ慎ましやかで可愛い妹に     」
「どうでもいいですよ、その妹論は。この変態変態ド変態」
「うふふ、残念。」

 伊織ちゃん?
 びくり、とかたが、はねる。
 やめてやめてと泣き叫んでも、きっとやめないだろう。優しくて優しくて、異質で異常な大事な家族。
 大事な      ひと。

「双識さんがいけないんですよぅ。変態なおにーちゃんなくせに無駄に優しいから、無為に美形だったりするから、無意味に、かっこいいから。」
「うーん、これは意外とストレートに褒められているのかな。」
「違います。怒ってるんです。双識さん、お兄ちゃん、教えてくださいよ、どうしてですか。」
「なにがだい?」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは、どうして私を置いていくんですか」

 兄は口を閉ざす。
 それはそうだ。零崎伊織はその答えを知らないから、この、零崎双識がその答えを語るはずがない。
 だからこんなの意味がない。ただの自己満足あるいは、ただの、自傷行為。


「勝手にしんでんじゃ、ないですよ。ばか兄貴、この嘘つき」

 おまけに夢にまで出張しちゃって。そんなに心配なら。ちゃんと生き残りやがれって話ですよぅ。
 睨みつけると、鮮明な記憶で作られたただの幻は、それでも見覚えのある兄のかおでわらうのだ。

 大嫌いです、
 その針金みたいな肩に頭を預けて思わず呟いていて。あぁ、にたものきょうだいですね、わたしたち。なんて、思った。



うそつき きょうだい。
 (普通に焦がれて家族を愛する可愛いひと)






031:染まる (沖田×千鶴?かける?)

 たとえば名前を呼んだ時びくりとこわばる表情だとか。
 たとえば薄い唇からおちる弱弱しく震えた声音だとか。
 たとえば、こちらを視界にとらえてゆらゆら揺れるやけに大きな瞳だとか。

 そういうちいさな仕草に見える怯えを見つけて遊ぶのは中々愉快だった。
 そもそも正直存在がかなり面倒だと思う相手なわけで。いかしておくことで生じる利点があるのは否定しないけど、それによってうまれる煩わしさのことを思えば、ついうっかり殺してしまいたくなる。
 どうしたってぬぐえない苛立ちは「新撰組」ではなく沖田総司「個人」に関して何も利点がないからで、精々その怯えてひるんでもがく姿を眺めてせせら笑うくらいしか、個人としての利点或いは楽しみは見出せない。ただそれだけの存在。

 だから、視界の隅をよぎる薄桃の着物を捕えても、その小さな人影が重そうな荷物を持ってよろよろしていても、親切とか気遣いの気持ちは微塵もわいてこなかったのだが。 

「大変そうだね、千鶴ちゃん」
「沖田、さん」
 
 声をかければ案の定、振り返る瞳はゆらゆらゆれて、表情は一瞬で強張る。
 
「手伝ってほしい?」
「け、結構です。ひとりでも、だいじょうぶですので」
「まぁ、そっか。まさかそんなつまらない仕事で、幹部の手を煩わせようなんて思わないよねぇ」

 言外にこめられた嫌味をくみ取った表情が、一気に陰る。

「そう、ですね。私、これくらいしか出来ませんし」

 悲しそうに笑って、男のなりをした少女はかすかに首を傾けた。拍子に、さらりと、落ちた、流れる黒髪。
 ‥‥ああ、そう。
 こういう姿を見ると無性に腹立たしい。
 
 怯えた表情のくせに、決して拒絶の色はない。どこまでも悲しそうに申し訳なさそうに静かに笑う。
 震えた声音のくせに、媚びたり不要に取り入ろうとする様子はない。ただ芯を持ってたたずんで。
       ゆらゆらゆれる、もろい視線なくせに、決して、決して目をそらさない。

 そういうところが面白くない。
 まったく、つまらない。

    貸してよ」
「え?」
「ほら、そんなとろとろしてちゃ、日が暮れても終わらないでしょ?」

 え、でも、あの、とかもごもご口の中で何事か呟いているのを無視してその手から荷物をはぎとった。重そうにしているからなんだと思ったが、なんてことはない、自分にとったらあまりに軽い。
 こんなことも出来ないんだ、と小さく思うけどそれは、不快感からではなく純粋な感想。

 そう。彼女はもろくてよわくてちいさくて。
 でも、

「お、沖田さん」
「何」

 わざと彼女が怖がるつっけんどんな言い方をしたのに、それでも彼女は、「ありがとうございます」なんて、何時もは見せない満面の笑みを浮かべていた。
 別に、と返した言葉が無色に染まるのは、多分。

       ああ、つまらない。おもしろくない。
 ただ怯えてひるんで縮こまっているだけのちっぽけでよわいだけのモノだったら良かったのに。




 ‥‥‥だから、思いの外君が嫌いじゃない。
 それがちょっと、気にくわない。

 (最初のころのぎすぎすが好き)






043:ぬくもり (人識+伊織(→双識))

 夜、むくりと起き上がる気配が隣でした。
 それだけで目が覚めてしまうのは、眠りが浅いとかの習慣の問題ではなく、それは元来のそういうイキモノとしての在り方のせいだ。

「‥‥‥、」

 そのまま隣の気配がもぞもぞとうごめき、立ち上がる。起こされてもいないのに手伝いを申し出てやるほど人識は優しくも甘くもなければ面倒見の良さ、なんて単語とは掛け離れた性格だと自負している。
 よってそのまま寝たふりを続行していた。のだが。

「‥‥‥そろり」

 とわざわざ効果音を口にだしながらその少女、何をするかとおもいきや、こちらのシーツの端をめくり、

「おっじゃましまーす」
「いやいやいやするなよっ!」
「ほぁああ!?た、狸寝入りとは卑怯です非道ですよぅ人識くん!!」
「ナチュラルに人の寝床に潜り込もうとする方がどーかと思うぜ、俺としては?」

 呆れた口調で答えれば、見かけだけは華奢な少女は、抱えた枕を抱きしめるようにして口ごもり迷い困惑しながらーーしかし、そこに一条の悦びとそれ故の悲哀をしのばせて、呟いた。

「ゆめを、みるんです」
「‥‥あー、所謂あれか、恐竜に喰われるだの空から堕ちるだの、そーゆー愉快な類の?かははっ悪夢を恐れる殺人鬼、ね。傑作だな」
「あくむ、じゃ、ないですよぅ。幸せな幸せで幸せすぎる、夢です。そうです、読んで字の如くゆめ、です」

 抱きしめた白い枕、布に吸い込まれる声、ただしその裏に確かに小さく聞こえた文字は、彼にもひどくおぼえのある、名前。

「‥‥‥‥」

 別に責めるだとか諭すだとか励ますだとか、そういう気はまるでない。そう、それこそ      彼女の言う名前の人物の大好物な分野だ。
 ただとりあえず、ゆめ、と口にした下敷きの煩雑そうな感覚の理由は理解できた。

「そんなわけで人識くん、添い寝してください」
「どんなわけだよ、この流れは」
「じゃあハグでもいいです、ぎゅーって」
「‥‥逆に難易度上がってるっつーの」
「簡単ですよ!妥協ですよ!」

 どこがだ、と思いながら、我が儘な姉をちらりと見遣る。
 しょたいなく佇む腕に、抱かれた枕。きつくしっかり抱き寄せているのは、たぶん、彼女の手首から先が存在しないせい、だけではない。

 メンドクセェ、
 というのが何処までも彼の本音で、ばさりとそのままシーツを引っ被るが早いか完全に寝る気だ。
 それを拒絶と受け取った少女は諦めた、‥‥‥というフリをしてどう陥落させようかと画策をする、のだが。

 ぽすぽす、
 と、多少雑にシーツを叩く音がして、
 「‥‥はじなら好きにしな」とたるそうな声を聞いた。

 一瞬で喜色に染まった素直な表情のまま、弟の傍らにいそいそと潜り込む。変なことしないでくださいねーお前は好みじゃねぇっつったろ、と他愛ないやり取り。
 ひた、とふれた個所から伝わる熱が、じんわりしみる。
 それが嬉しいのか、やたらとにこにこ笑う彼女を見て、夢うつつにどうでもいいことに思い至った。


       ああ、そうか。おそらく) 
(ゆめには、体温がないんだろう)


 寂しさを感じられない少年は、それは傑作だな、と、苦く笑って自分も体温のない世界へとおちていくのだ。



 (なんだかんだで家族がすきな人識。お兄ちゃんのこともすきだったんだろうな。)






057:傍に、いるよ(佐伯→デイジー)

 高校生活なんて、全然望んでなかった。
 誰にも文句をつけられないくらいの優等生をするだけの場所。何も意味はない。ただ、そうであることが必要だから、そうしなくちゃいけないから、そうしてる。それだけ。疲れるだけだ。

(俺、何してんだろ)

 馬鹿みたいに「何も考えてません」「楽しんでます」なんて同じような表情をした連中の波のなか。自分は何なのだろうとぼんやり思う。どこまでもくらい夜の海を見つめているような。そんな。
 何してんだろ。何の意味があるんだろう。滅茶苦茶に突っ走って、我武者羅に全部と戦って。

 何、してるんだろう。

 本当は、ただ意味がないことを認めたくなくて、ただ何もできないことを認めたくなくて。それだけなんじゃないのか?気付いて、いるんじゃないのか?
 本当は、     俺は何も。


「ねぇ、佐伯君。遊びに行こう?」 

 そのままぽっかりくらいまっくらな場所に呑みこまれそうになったとき、不意に現れる。
 「何も考えてません」。「世の中楽しんでます」、とでかでか顔に張り付けた代表のような、そんな奴。それはとても、眩しいくらいに。

 うっとうしくて面倒で、煩わしくて。なのに、気が付けば傍にいて。

 俺が『意味がない』と切り捨てていく高校生活を、ひとつひとつ指を指して「あれが楽しい」「これがおもしろい」と笑っている。ひとつひとつ拾い上げてすくいあげて。決して見捨てたり見逃したり、しない。いつだって。どんな時だって。

 ばかなやつ、だと思う。ばかだ、と思いながら、一緒に笑っている自分が居て。

       時々、無性に泣きたくなる。あいつといると、どうしようもなく。
 それさえ笑って許してくれるんじゃないかと、思う自分が堪えられない。

 泣きたくなる。 
 優しすぎて、くるしくて。しあわせすぎて、くやしくて。

 頼むから、そんな情けなさを、許さないで欲しい。



(分かってた。疲れて思いつめてどうしようもない時に、必ずお前が連絡よこすことくらい。気づいて、いた)


 (いつか壊れそうな硝子の王子様)
10/6/19






059:おかえりなさい(望月×ハム子)



 もう少しきれいにこいができればよかったね。

 彼はそう言って、笑った。
 言葉とは裏腹に、泣き出す寸前のようなそれはひどくきれいなものに見えた。
「どうしたの?」
 怯えた小さなこどもがそうするように、彼女の膝へ頭を預けて縋る彼へ、彼女は優しく問いかける。
 怖いの?と囁く唇は紅い。彼の髪を梳く手はたおやかで。見つめる瞳は穏やかだ。まるで、聖女のように。
「もっときれいに、君に恋をしたかった」
 ただ、静かにそう繰り返す。
 髪を梳いていたほっそりとした指先が、やけに白い彼の指に絡めとられた。華奢な彼女の指先に、祈るように、すがる。
「きれいに?」
「僕は君だから好きなんだ。他のだれでもなく、君だから。でも、それは恋としては間違っているのかもしれない」 
 僕にとって君は、恋を捧げる『恋人』で、けれどその前にけして離れられない『双子』のきょうだいで、いつか還るべき『母親』だった。
 ―――或いは、僕自身。
「全然きれいなこいじゃなかった。‥‥始めから、きっと。全部、僕の為のものだったんだよ、僕は、」
「私はね、綾時」
 静かに話に耳をそばだてていた彼女が突然話を遮り、ゆっくり微笑む。
 それは、彼とは違う。まるで泣いてなんかいない、あざやかな微笑みだった。
「きれいなこいなんて、いらないわ。」
 いらないの。鮮やかに断じる。彼の頬に添えられた指は、確かめるようにそのラインをたどっていく。
「私は誰より貴方の近くにいて、貴方は誰より私の近くにいるの。ねぇ他に、何が必要なの?」

 たとえばきれいな恋ではなくても。たとえばそれが、間違っていたと、しても。
 それでも確かに、好きだというのならば。
 それがどこに根ざして、どこへ向かう思いだなんて、きっと関係のないこと。

「あなたは私が好きなんでしょう?」
 確かな響きをもった言葉に、すべてを忘れて彼はただ、頷く。それを見届けた彼女は、ひどく満足そうに笑うのだ。聖女めいた微笑みの、その裏で。喉を鳴らす、猫のように獰猛に。
「なら何も関係ない。貴方のすべてがここにあるもの」

 それなら、何も怖くないわ。
 
 そう言うと、愛おしい恋人は、姉のように優しく母親のように慈愛に満ちて猫のように気まぐれに、彼に口づけた。
 ソレは紛れもなく「女」なのだと、今更ながらに深く知る。





 (ブログより。望月→主人公は母親と恋人の合間ないめぇじ?主人公と望月の間の認識の若干のずれ。)






082:片割れ (望月×ハム子)




「綾時は、夜の海みたいだわ」


 学校帰りの道さなか。半月の映る夜の海を眺めてそう呟いた。
 部活で遅くなると話した筈なのに、冷たい11月の空気の中、校門で飼い主の帰りをまつ犬のような彼の姿を見て、一緒に帰らないという選択は、出来る筈がなかった。

 嬉しくないと言えばうそになるけれど、それ以上に胸をしめた、言語化できない曖昧なじれったさを詰め込んで落とした呟きは、もしかしたらどこかとげとげしかったかもしれない。

「僕が、よるのうみ?」

 けれどそんな曖昧で突き放したような表現にも、彼は怒るでもなく、笑うでもなく、ただ、静かに凪いだ純粋なまなざしを捧げるのだ。

        きっとわたしは贅沢なのね。
 眼下に広がるたゆたう黒い水面のような瞳には私しか映っていないのに、それを見つめると、どうしようもない衝動にかられてしまう。

「だってとっても穏やかで静かなのに、そこに何が沈んでいるのか分からない。たくさんのものをそこに沈めて、たくさんのものを包み込んでるくせに、全然見えないのよ」
「つまり、僕が良く分からない人間だ、ってこと?」
「全然分からない」

 分からないの、ほんとうに。
 多分、すこしだけこわい。こわくて、さみしい。

 彼の中にあるたくさんのものを知るには、私達の共有する時間はあまりに短くて、浅い。
 たとえば、たかだか数十分もない帰り道のため、頼まれてもないのにずっと寒い中待っていた。そんな理由さえも、私には本質的には理解できていない。

 いろいろなものが足りなくて、こわくて、さみしくて、かなしい。

 そう、とても、かなしい。


「‥‥きっと、君が思ってるよりも、ずっとずっとわかりやすいと思うな。だって、君のことしか考えてないから」

 きみがすきだよ、と彼は惜しみなく愛を降らせてくれる。
 それでもわたしは、どこかかなしいのだ。

 一部の隙もなく、彼のことを知りたいのに。欲しいのに。
 どうして私と彼との間に距離があるのだろう。どうしてわたしたちは、どうしようもなく他人なのだろう。

 当たり前でどうしたって動かしようのない事実。違う生命体として存在するからこそ彼は私をあいしていると、言ってくれるのに。
 どうして私は彼と他人であることに、これほどまでのむなしさとやるせなさを覚えるのだろうか。

「僕が夜の海なら、君は月かな。手の届かない月に焦がれて、水面に映る姿だけを大事に大事に抱いてる。」

 きっとそれだけで、幸せなんだろうね。
 私のおろかな欲なんて知りもせず、そんなことを言いながら微笑んだ顔が、たまらなく優しくて。腹立たしいような、くやしいような、泣きたいような、そんな気分だった。

「きっと月は落ちてくるわ。海が恋しくて」
「そう、それは素敵だ」

 笑っているくせに、きっと信じていない。
 
 私が月なら、海にだって飛び込んで見せる。
 あなたとひとつになれてまどろめるのなら、それはそれは満たされた夢をみることができるだろうから。
 まるで、遠い、昔のように。

 それが許されないのならば。いっそひとしずくものこさず夜の海を飲みほしてしまいたいと思うのは、愚かな女のさがなのでしょうか。

 けれど彼は海ではないし、私は月でもない。
 一つにもなれないしすべてをわたしのうちに納めることなど、できはしない。


「ねぇ綾時、手をつないでもいい?」
「聞くまでもないよ。喜んで」



 だから、私と彼が、他人で違う生命体であるがゆえの接触を、わたしは求める。
 他人であることで生まれた空虚さは、他人であることでしか埋められない。

 そう、信じることしか、今の私にはできないから。





 (ブログより。自分の書いた望ハムの中では実は一番気に入ってるとか)
10/11/8