ふとした瞬間、思いだす。
 まっすぐのびた背筋と、何にも負けない強い瞳を。



 船の小さな窓から見える、広がる藍色と、輝く星の瞬き。
 果てのないそれはを見るのはまるで、行く先の見えない自分のこれからのようで、時々、ひどく、不安になる。きらきらと宝石のような星が、いくつもいくつも無数に無限に輝くのに、美しいと思う半面無性に恐ろしく感じるのだ。
 一見澱みなどない、このそらに、一体どれだけのものがのみ込まれたのだろう。命も、未来も。

 それ以上、見たくなくて。視界から追い出すように蒼眼を閉じた。


(―――――そう、彼も)


 閉ざした瞼のうらに、浮かびあがってきた面影。
 もしかしたら、このそらに沈むかもしれない。彼は、そういう世界にいるひとだから。
 それは、明日かも知れない半年先かもしれない。もしかしたらずっと訪れないかもしれないし、いままさに、この瞬間、かもしれない。

 そんな、どうしようもない思いに駆られる時は。
 どうしようもなく、苦しい時は。

 無数に瞬く星よりも、ずっとずっと強く輝く、あの鋭くて優しい赤褐色を思い描く。
 何にも負けないあの姿を。ゆるぎのない、背中を。


 そして小さく小さく。大切なもののように。呼ぶ。



 その名前を。









 *****









 ふとした瞬間、思いだす。
 やさしい手と声。それから、涙。



 手にしたカップを机に置き、祈るようにまぶたを下ろす。いつか、遠い昔、神に祈った時のような真摯さで‥‥生憎、祈る神は亡くしてしまったけれど。
 彼女は今、どうしているのだろうか。何をしているのかは、分からない。でもきっと。


(たたかっている)


 彼女も。
 きっと、彼の選んだものよりも、ずっと難しい方法で。それは確信。彼女が彼女である証明をしてほしい。彼女の、やり方で。そう、誰よりも切実に、願う。
 
 だからきっと、彼も彼の証明をするために、たたかう。戦い続ける。それを、選んだのだから。

 ――――――ただ、今は。

 この一瞬だけは。ほんの僅かな安寧を。心の安らかさを。
 彼女の姿を思い描きながら、不思議と感じる穏やかな気持ちをかき消してしまわないように、小さく小さく、大切なもののように。呼ぶ。



 その名前を。






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 進む道は少し違う。けれど、その道筋がまた交差する日を待っている。
 
 だから、

 万感の願いと思いをこめて。どうか無事で。どうか迷うことのないように。それから、ほんの少しの、
会いたいと、焦がれる気持ちを混ぜて。

 名前を呼ぼう。
 遠く遠く離れたあなたに、つながる気がするから。
 少しだけ背筋が伸びる。あなたに恥じる自分でいたくはないのだと。勇気をもらえる、つよくなれる、
気がするから。
 
 それは、まるで。







魔法の呪文
 














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わたしのなかで刹マリはこんな感じ。
お互いに、相手に恥じる自分でいたくない、だから離れていても、相手を思える、みたいな関係がすき。
っていうか、単に、本編でお互い名前を呼び過ぎだとおもう、って、ただそれだけなんですけど。
  20081203