『学校生活で5のお題A』(風花さま)


5、毎日が全力疾走 (『ネウロ』 ネウロ×ヤコ)



「ふぎゃっ」

 何も無い場所で転んだ。
 ‥‥と、思ったら。何も無いのは誤りで、そこには日の光でほんのかすかにだけ見える程度のテグスのトラップがしかけてあった。

「ね、ネウローーー!!何なのよこの意味の無いトラップは!?」
「ふははは、何、申し訳程度にしか備わっていない貴様の危険回避本能を日々育成してやろうという心優しい我が輩からの贈り物だ。泣いて喜べ」
「喜べるか!!」
 
 どこの世界にすっころばされて喜ぶ奴がいると?
 地に突っ伏したまま、事務所の天上から見下ろしてくる碧の目をにらむ。当然、堪えるわけがない。

 こう言う時、すぅと奴の目が眇められるのを知っている。
 それはある種、転んだ子供が立ち上がるのを促す、親の眼差しに似ているのかもしれない。‥‥いや、それは、すごく「善い」例えで。本当は多分、ひとつひとつの動作に対してどう反応が起こるかを見る、科学者のそれだ。奴にとって、人間とは観察対象でしかない。
 
 ‥‥けれど。
 その碧の目を見つめて思う。観察されているのは、知っているけれどそんなに嫌な感じがしないのは。

「どうした、ヤコ。それほど地面と抱擁するのが好きならば、そこに縫いつけて一生そのままはいつくばらせてやろうか?」
「遠慮します!!謹んで!!いやほんとわたし二本の足で立つのだいす」

 き、まで言えなかったのは、突然横から巨大なパチンコ玉のようなものがぐしゃりとぶつかってきたからで。
 そのまま再び地面に激突したところへ、頭の脇数センチに杭がどすりと突き刺さった。
 ‥‥え、これ、死んでたんじゃない?割と、高確率で。

 ぎぎぎ、とぎこちなく首をめぐらせれば、にこりと音がしそうなほど綺麗な笑み。

「せわしないな、ヤコよ」

 アンタのせいだろーが!?
 ってか、言うに事欠いて、それか!?
 
 ひとがバタバタ必死であがくのを、上から見おろしてせせら笑う。アンタのその視線が心底腹立つ。
 愚図がゴミがミジンコが、と盛大にありとあらゆる語彙で罵りつくしって、私が立ち上がるのを待っている、その。
 その、立ち上がると、信じている、顔が。 

 それがどうしようもなく人を、私を、奮い立たせると知っているのなら、アイツは真実本当に、Sだと思う。
 だからアイツの目は、観察する科学者のそれのくせして、親が見守る優しい眼差しよりもある意味居心地が、いいのだろう。

 そうしていると足も痛くてお腹も痛くて、苦しくて仕方がないのに、笑いたくて仕方なくなる。
 立ち上がって、笑って、ざまぁみろ、と言ってやりたくなるのだ。
 

(それさえ、ホントは、アンタの思惑通りなのよね)















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20150204再録