ぽつ、と。
 強めの滴がひとつ、頬を打って。おやと思った時には手遅れだった。
 ざぁ、と雨音が奏でているはずのそれにしては、激しい音色が容赦なく他のすべてを遮断する。
 周りの人間はうろたえ、慌てた様子でかけていく。それは割と愉快な光景で楽しめるのだがいかんせん。
 腹立たしい、と舌打ちしたとて雨はそれを喜ぶかのようにいっそう激しさをますばかり。叩きつけるように降ってくる。
 大して空に雲はないというのに。これだけの水分、よく持っているものだ。と妙な感心さえ覚える。とおりあめと、言うのだったな、と
 いくつもの雨粒がその肌を打ちつけ髪も服も濡らしていくことに気も留めずにいた。


「‥‥なに、してんのよアンタは」


 と、呆れたような声がした。
 轟音の向こう側から、やけにクリアにそれは聞こえてきた。
 振り返れば実際呆れた顔をした奴隷その壱が淡い桃色の傘をさして佇んでいる。
 ばらばらばら、と雨が傘にぶつかる音がする。さすがにこの雨の中、足もとまでは守りきれなくとも、少なくとも傘もささずに突っ立っていただけよりは、ずいぶんましな格好だった。

 ‥‥‥‥なぜか癪に障る。


 無言で近寄ると警戒したように身がまえた。が、さらりと無視してその傘を奪い取る。
 あ、という口の形のまま、それまで傘が受け止めていた水滴は、まともにすべて彼女の上へと降り注ぐ。


「な。何すんのよ!!!」
「我が輩が濡れて貴様が何ともないなど不公平ではないか。」

 あの水たまりにたたき込まれなかっただけ、ましだと思え。
 さも当然と、言うその言葉に、この理不尽ドエス大魔人が・・・・と呟き力なくうなだれる。その上に容赦なく雨が。


 そこはかとなく不快だった通り雨だが、少しばかり気分が回復した魔人はひどく楽しそうに濡れた前髪をかきあげて、わらった。













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拍手さん。どこまでいってもこのテイスト。

20150204再録