A Doll-like Face




 黙っていれば、希臘の彫像にも引けを取らない。
 まるで幼子の様に健やかな寝息をたてる探偵を見つめながら、初めて彼の人を見た時と同じことを、美由紀は思った。


 偶々通りかかった礼拝堂にて深く椅子に座る見知った後姿を発見し、もしやと思って近寄ってみると、案の定この様である。このひとは、本当に何処でも寝れるんだ。感心なのか呆れなのかよく分からない。


 起こさぬよう注意を払い(最もそう簡単に目覚めるとも思わなかったが、一応念の為)隣に腰を下ろした。

 透き通るような白磁の肌、完璧な配置に置かれた貌の部分(パーツ)、伏せた睫は驚くほど長い。
 上空の硝子から入り込む光の加減で淡い茶色にも見える柔らかそうな髪。ビスクドールを彷彿とさせる、完全なる容姿。思わず、見惚れずにはいられない。


 しかし、美由紀は何か物足りなかった。
 

 この完璧な外見のなにが物足りないと言うのか。否、外見は完璧だと思う。思うのだが‥‥‥‥、ひどく、物足りなさを感じる。

 希臘の彫像にも引けをとらない絶世の美貌。
 ただし、観賞用として安心して眺めて居られるのは、この麗人が黙っていればの話である。

 一度口を開けば奇怪で奇妙で奇抜で、要するに一言で云ってしまえば変なのだ。此方のペェスをとことん乱されて、とてもそんな美貌に見惚れる暇などありはしない。

 かといって、いざ黙って居られると、何所か物足りなさを覚えるのだ。不思議な話だと思う。


 他の美丈夫ではどうだったかと考えると‥‥少々系統は異なるのだが、美貌の人として脳裏に浮かぶのは、天使のような少女。悲しくも儚かった、あの少女。どこか作り物めいた、美しい容姿を思い描く。

       矢張り物足りなさなど感じはしない。

 何せ彼女は黙っていようが何をしていようが人形のように美しかったのだ。この奇天烈な人間とはわけが違う。



       あ、」


 
 そうか。
 答えに到った美由紀の口から小さな声が漏れた。



 そうか。そうだ。このひとが     黙っているからいけないのだ。



 この奇天烈な変人の魅力は、きっとこの容姿ではない。
 否、無論、整った容姿はそれだけでも価値のあるものだろうが(正直に云って美由紀は少しばかり妬ましくも思う)このひとの場合、違うのだ。

 確かに滅茶苦茶で突拍子もなくて付いていけないし付いて行く気もない行動ばかりだが、そう言う時何時だってこのひとから人形めいた印象は消え失せる。活き活きとした、力強い生きた脈動を感じるのだ。

 人形のように死んだ脈動は、榎木津ではない。

 美由紀の目から見た榎木津は、可笑しなひとだが人形ではない。キラキラとする生きた輝きが、作り物めいた美貌を人たらしめ、そして榎木津たらしめるのだ。








 だから、眠っている、つまり活動状態にない彼を、物足りないと思うのだろう。











 ‥‥‥と、最もらしい理由をつけてみたが。

 結局、美由紀は、奇天烈で変梃で、付いて行きたくもないし付いていける気もしないこの探偵さんのやる事成す事云う事が、結構嫌いではないという、実はそれだけであったりする。
























++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
 えのみゆ?第一弾でした。
このころはまだ、プラスな感じ。どこで何をどう間違えたんだろう・・・・。

20080510