職務に忠実に。確実に、的確に。
それは当然のことだと思う。できなければ、価値などありはしないのだから。
それを沖田あたりには真面目だとからかわれるが、寧ろ彼のありようが不真面目過ぎるのだと、言いたい。
だから、彼女を守るのも、助けるのも、
ただ任務を忠実に遂行するから、それだけでしかないのだ、つまるところ。
「雪村君」
廊下にぼんやり腰かけて、秋の空を眺める少女を見つけて知らず声をかけたのも、そうすべては新撰組のためである。
「あ、やまざきさん」
そうとも知らないだろうお人好しの彼女は、迷子が親を見つけた時の、安心するような表情を浮かべた。
・・・・理由はわからないが、自分は彼女にとって、"安心"な人間に分類されるようだと、他人ごとのように思う。信頼できるにんげんだ、と。そんな勘違いを。
「こんなところに居ては、からだが冷える」
「ああ、確かに。最近少し、肌寒くなってきましたからね」
屈託なく、疑いなく、少女は微笑む。そして、かすかに表情を曇らせて、ぺこり、と頭をさげた。
「ごめんなさい、部屋から出るなと言われているのに。・・・・・秋の空気だなぁ、と思って、ちょっとだけ風にあたりたくなってしまったんです。」
そう、彼女は、謝る。彼女は、脅して、迫って、強制されているだけの可哀想な籠の鳥。そのくせ自分を憐れんだり、過剰に嘆くこともない。
「秋の空気、というと?」
「うーん、うまく、言えないんですが・・・・・。夏のじりじりした強い感じから、少しづつやわらかくなるんです。とけていくみたいに。あとは、落ち葉のかおりもします。」
季節の変化などにまるで無頓着な自分からしてみれば、よく分からない程度のものだろうが・・・・・そんなささいなことに、はしゃぐ彼女は、無邪気だ。ささいなことで、ひどく楽しそうに笑う。どんなに小さなことも、彼女は見逃さないのだろうな、と取り留めもなく思う。
つられて見上げると、太陽が西に傾く姿があった。
「日が沈むのも、早くなった。もう日暮れだろう」
「秋の日はつるべ落としって言いますもんね・・・・・・っというか、え!もうそんな時間!!うわぁ、私どれだけここにいたんだろう・・・・」
「雪村君はぼうっとしていることが多いからな。割合よく見かける気がするが?」
「そ、そんなことは・・・・!!」
からかうように告げると、あわてたように彼女は立ちあがる。
「わ、私そろそろ部屋に戻りますね」
「ああ、そうしたほうがいいだろう。君が部屋の外にいるのを見つけると、好い顔をする人間ばかりでは、ないからな」
「・・・・・・はい」
丁寧に、頭をさげた。「ありがとうございます」と、これも丁寧な言葉で。
「注意してくださって、ありがとうございます。今回見つかったのが山崎さんでよかったです」
他意はない言葉に、僅かにからだが震える、のを、なんとか抑え込んだ。
ただの任務で、ただの責務で、そこには人間らしいあたたかみのある情など、ありはしないというのに。――――あっては、いけないと、いうのに。まっすぐに、向かい合ってくる。それが、痛いと感じるようになったのは、いつからだろう。
「いや、いいんだ。」
ぶっきらぼうな返事にも、嫌なひとつせず、「良かった」と繰り返す。
きっと彼女は、苦し紛れに無様に投げかける言葉をも、大事に受け取ってくれるのだろう。そんな、気がする。
「大変なお仕事の山崎さんにこんなこと言うのもどうかと思うんですけど・・・・山崎さんも、どうか体に気を付けてください。季節の変わり目は、からだに負担がかかるものですから」
にっこりと、彼女が投げかけてくるのは、間違いなくねぎらう言葉。
『山崎丞』のための、それ以外の何物でもない言葉。
本当に、ささいなことを見落とさない。他人を慮ることを、ためらわない、本心からの、やさしさ。
その優しさを裏切っているのは、ひどく罪深いことのように思えてならないのだ。
・・・・・けれど、同時に、裏切り続けなければ、いけないことでもある。彼女を気遣うのも助けるのも、すべては任務だから、でなくては、いけない。
だから「失礼します」と踵をかえす彼女の小さな小さな背中を見つめて、「すまない」と我知らず呟くのには、気がつかなかったことに、する。
罪悪感だと認めるのは、自分が彼女を「任務の対象」以上に見ていることを、認めなくてはいけない、から。
――――――そんなことを、してしまえば。いつかは、
もっともっと、身の程知らずな、愚かな願いを抱きかねないことを、たぶん自分は、気が付いているのだ。
となりよりもっと近く、
君の。
(そんな資格、ないくせに) _
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山崎さん。本当は、もちょっと善人な気もしますが。井上さんと山崎さんは私の心の癒し。
でもどちらかというとお堅いイメージ。あとは副長命。沖田の天敵。なんかそれで大体語れてしまう気がする(笑)
20091009