4 どうしたら伝えきれるかな?



 おちてくる落ち葉と必死で格闘している。
 任務から帰ってきた斎藤の目に飛び込んできたのは、小さな闘いの場面だった。


 ちょこまか、とか、ちょこちょこ、とか。そういう形容をしたくなるようにせっせと動き回る少女。はらはら落ちてくる落ち葉にめげず、懸命に闘い続ける。


 あっちへぱたぱた、
 そっちへてくてく、


 相変わらず落ち着きがないな。
 と端的な感想を持ちつつ、眺めていて飽きないその動きをつい見守っていた。

 落ち葉と奮闘する少女は、こちらに気付く様子はない。終りのない作業に疲れたのか、恨めしそうに空と、立派にそびえたつ木々を見上げるが、それでも諦めず、作業を続行する。



 一瞬、手伝おうかという考えがよぎったが、それは己の仕事ではない。
 元来生真面目な彼としては、他者の仕事の領分を侵すのは本分ではないし、そもそも彼とて己の仕事がないわけではない。副長のもとへ報告すべき案件が、いくつもあるのだ。
 そう理解していて、そこにいても何もすることも出来ることもないと知りながら、つい少女から目が離せない。何故だろう。目が、惹かれる。どこかの一番隊隊長のようにちょっかいをかけたり構いたいわけでもない。  
 ただ、‥‥。
 
 ただ、動けなくなってしまう。
 どうしていいのか分からなくなる。
 


 かさり、と落ち葉が鳴ると、少女はこちらに気がついた。
 大きな瞳が驚きに彩られ、何度か瞬きを繰り返す。そのつもりは毛頭なかったが監視をしているのだと思われただろうか、誤解をさせてしまっただろうか。何か、口にすべきではないだろうか、と、思っていても言葉が出てこない。
 
 どうしたいのか、どうすべきかもわからない、けれど。
 少なくとも、間違いないのは、少女を悲しませたくはないという、こと。




 僅かな、けれど彼にとっては長い、沈黙の後、






「おかえりなさい!斎藤さん。お疲れ様です」





 出口を見出せない彼の代わりに、さらり、と少女が沈黙を破った。
 彼女のかおにうかぶのは、失望とも戸惑いとも躊躇いとも、そういった負の感情の類など微塵も見えない、明るいえがお。野辺にさく花を思わせる、やさしいそれに、われ知らずほ、っと。肩の力が抜ける。

 疑うことを知らない、無邪気なその様子に。なんだかひどく、救われた気がする。
 
 どうしたらいいのか、分からない。
 けれど彼女が笑っているのなら、もう、何でもいいか、と。思ってしまう。





 どうして目が離せないかとか、
 どうして悲しんで欲しくないだとか、
 ――――どうして、彼女に微笑みかけられて、名前を呼ばれるだけで、それで構わないと思ってしまうのか、とか。

 そんなの、今はどうでもいいか。と、内心結論付けて彼が少女に向けるのは、めったに見られない極上の微笑み。
 

 そして、







「――――ただいま」






万言に勝る一言


(斎藤さんの笑顔って、ズルイと思うんです!反則だと思います!)















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 斎藤さんは大概むっつりだと思う。
 無口っておいしい。
   20100121