1 焦れったさも一緒に



 はらはら、
 静かに音もなくこぼれおちる。

 それはなぜか、春を見失った狂い咲きの桜のようで。ひとりで朽ちていくかのように、彼女はただ静かに涙を流すのだ。
 月夜に独りたたずむ。その姿は目を奪われるほど美しいのに、見ていられないほどに胸をえぐる。
 静かに、静かに。
 
 ああして彼女が泣くときに、だれを想っているかなど、簡単に想像できる。だからこそ、無関係な己が邪魔することは許されない時間に思えて仕方がなく。
    無関係、)
 という自分の言葉に感じた小さな苛立ちに舌打ちをする。
 まったくそのとおり、無関係だ。彼女と彼らの思い出に立ち入る権利などは持ち合わせていない。持ち合わせてはいない、が。

 ‥‥権利がないからなんだというのだ。

 彼女の中に居るあのまぶしい浅黄をまとった連中は。どれほど心の中を占めようとここにはいない。どうしたって、居ない。
 だからこそあの娘は静かに涙する。
 居ない。だから奴らにあの涙を止めることも、抱きしめてやることなど、出来やしない。

 権利がないのがなんだ。
 権利などなくとも。

 
「‥‥千鶴」

 名前を呼んで振り返った頬、とそこに伝う涙にくちづける。
 それは今、己にしか出来ない事だと。言い聞かせるように焦れるおもいと高い矜持ごと小さなからだをだきしめた。


 想像していたよりも小さなせなかに背負うのは、自分ではないものたちへのひたむきな。


 ‥‥まったく、面倒な連中だ。
 死して猶、目の前から消えて猶、ふてぶてしく居残り続けるあつかましい連中。
 面倒で時代錯誤で馬鹿な連中だった。

       だった、けれど。厄介なことに、そう、決して嫌いではなかった。だからこそ、抱きしめてやることくらいしか、してやれないのだが。









彼女の横顔によぎる影



















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 ちーさま。ルートによってブレブレな風間様ですが、なんだろう、基本的には落ち着きと懐の広さのあるいちにを争うオトナなひとだとおも‥‥いたい。
 時々ハメをはずしてはしゃいでみたりもしますが。相当はめはずすけど。‥‥それってこどもなのかな。
  20101012