1 自覚症状



 子犬が二匹、じゃれている。

 端的にその時の場面の感想を表すのなら、間違いなくそうだった。
 それは、幾許かの報告を要する案件のことが、しばしぽん、と頭から抜ける光景で。「山崎。何してんだこんなトコで」という、原田十番組組長の声がかかるまで、我知らずその場に留まっていた。

「・・・・・」

 無言でゆっくり指差す先に彼も目もやり、山崎が足を止めていた理由を察したらしい。
 その顔に、呆れたような困ったような、そして愉快そうな笑みがうかぶ。

「いい気なもんだよなぁ、ったく」

 ひるさがり、良く晴れた空の下、やわらかな風の中、庭の片隅の大木のもと。
 よほど安心しきっているのか、こちらの視線に気付く様子のない眠りにおちる、新選組最年少組長と、あどけない少年の姿をした少女。互いに頭を預け合って眠る、それはそれは、穏やかな午睡の図。

「・・・・・」
「・・・・・」

 口を閉ざしたままの気まずい沈黙を、壊したのは原田の静かな笑みだった。

「・・・・・・いや、安心した」
「何がですか」
「あいつらに甘いのが、俺だけじゃねぇってわかってよ」
「・・・・・その云われ様は、不本意です。それでは俺が情に流されて職務を放棄しているようだ」
「じゃあ何で見つけた時点で叩き起こしにいかねぇんだよ」
「そ、れは、」

 叩き起こすべきなのは、当然分かっている。
 分かっているの、だが。どうにも頭にある、「戯れる子犬たち」の映像が、ちくちくと良心を刺激する。いや、間違って、いないはずなのに。藤堂には藤堂の仕事があるのだから、それを促すのは、間違って、いないはずなのに。
 ・・・・・つまるところ、要するに。いくら否定しようとまさしく「情に流されて職務を放棄」しているわけなのだ。

 くっくっく、と愉快そうに喉を鳴らす彼には、どうやら生真面目な性質であるが故の、山崎の迷いなどお見通しであるらしく、――――若干居心地の悪さを感じたのは、否定できない。

「藤堂組長にも、休息の時間も必要なのでしょうから」

 それを妨げるのは隊員の体調管理に携わる、山崎の職務上正しくない。
 ・・・・・ということにしておこう。

 苦しい言い訳に特につっかかることもせず、原田は微かに目を細め、少し離れたところで眠り続けるふたりを眺める。その横顔は、家族を見守るそれに、よくにている。

「平助は、悪友っつーか、弟分みてぇなトコロもあるし。千鶴も、平助といる時は明るい顔してることが多いし、つい、な。」
「そう、ですか。・・・・そうですね」

 そう言えば、藤堂の明るいだけとは違うあれほど穏やかな表情も、千鶴のあれほど安心しきった様子も、久しく見ていない。互いに体をあずけて、優しく、ただ静かに。そのさまはとてもとても、

「しあわせそうだなぁ・・・・・」

 まさに思っていたことが、隣から聞こえてきて。目をやると、原田の苦笑いがある。

「それにしても。平助のやつ、あんな日和見な顔しやがってるくせに、・・・・・ついでに、近頃二言目には千鶴が千鶴が、って言ってやがるくせに。それが何でかは、まるでわかってねぇみたいだからなぁ・・・・・」
「・・・・・あれで?」
「あれで」
「・・・・・それは、何というか・・・・・」
「・・・・皆まで言ってやるな」

 呆れたような溜息も、実のところ、ひどくあたたかい。

「ま、微笑ましくていいんじゃねぇの?あいつららしいよ」
「またそんな適当な・・・・」

 と苦言を呈しつつ。実のところちょっとばかり、自分もそう思っていたことは、口に出さないことにした。



 そんなことを言われていることなど、文字通り夢にも思わないだろう二人は、ただ、互いの体温と重みだけを感じて、しあわせにまどろむ。








 ひるさがり、良く晴れた空の下、やわらかな風の中、庭の片隅の大木のもと。
 幸せなまどろみを貪るふたりを、見守るまなこも幸せに。愛すべきふたりへ、祝福をいのる。

 いつまでもと、ねがって。
 はかないけしきと、知りながら。それでも。








保護者の自覚



















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 何を隠そう平助が、だいすきです。だいすきです。(2回言った)
 いやもうホント。可愛くてしかたない。
 割と新選組内でもあたたかく見守られてるイメージ。このふたりは。それでいいと思う。
  20091007
   タイトルつけました。20091009